東京高等裁判所 昭和28年(う)2332号 判決
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〔爭点〕本件記録によると、被告人が甲及び乙から丙議員候補者を当選させる目的で同候補者に対する投票並びに投票取りまとめ選挙運動の報酬及び資金としてS郡A、B、C、D、E、F、G、H、I九カ村の各村別選挙運動責任者に配分して供与すべきものとして合計金九万五千円の交付を受けそのうち八万五千円を右趣旨に従つて被告人からそれぞれ数回に亘つて供与したのであるが甲及び乙から供与すべき金額及び相手方は特に指定されていなかつた。問題はこの場合(イ)九万五千円の受交付罪と八万五千円の供与罪が別個に成立するのか、いずれかに吸収されるのか(ロ)供与しない残額はどうなるのか(ハ)受交付罪と受供与罪との区別如何、受交付罪の要件として将来如何なる程度に供与すべき相手方が特定さるべきことが要件とされるか等々である。
〔判旨〕本件のように「投票並びに投票取りまとめ選挙運動の報酬及び資金として各村の選挙運動責任者に配分供与すべき趣旨」の下に金員の交付を受けた者が更にこれを同様の趣旨の下にその選挙人又は運動者に供与したときは、初めの交付を受けた行為は、後の供与をした行為の一過程に過ぎないから、当然後の供与をした行為に吸収されて供与罪のみが成立し、別に受交付罪を構成しないものと解すべきところ(本件では九万五千円前記趣旨で交付を受け、内金八万五千円を五回に亘りその趣旨で供与したこと明らか)、右金八万五千円については、初めこれが交付を受けた行為は後のこれを供与した行為に当然吸収されて供与罪のみが成立し、別に受交付罪を構成しないが、残金一万円については被告人が交付を受けたまま未だ他に供与されていないのであるから、これが交付を受けた行為については受交付罪が成立するものといわざるを得ない。(中略)受交付罪が成立するには金員の交付を受けたものが交付を受けた金員の一部を自己の投票又は選挙運動の報酬又は費用等として収受することなく、その全部を前記同様の趣旨の下に選挙人又は選挙運動者に供与又は交付すべきことが当初から予定せられている場合であれば足り、必ずしも交付した者が供与又は交付すべき相手方及び金額を具体的に指示したことを要しないものと解すべきところ、原判決が原判示第一の事実について挙示した標目の証拠によれば、被告人が前記九万五千円の金員の交付を受けるに当つては、その一部を自己の投票又は選挙運動報酬又は費用等として収受することなく、その全部を原判示趣旨の下に選挙運動者に供与すべきことが当初から予定せられていたことが明らかであり、且つ、供与すべき相手方及び金額は全く被告人の自由裁量に委ねられていたものではなく、前記認定のように九カ村の各村別選挙運動責任者に配分して供与すべきものであり、従つて供与すべき相手方は各村において丙候補のために選挙運動をしてくれる有力者ということでおのずから限定せられ、又供与すべき金額も各村の有権者数等によつておのずから限定せられるべき筋合であり、なおI村についてはおのずからXに金一万円を供与すべきものとせらるべき筋合であつたことが推認できるから、原判決が前記九万五千円の金員のうちから原判示第二乃至第六のように供与した残りの金一万円について、被告人がこれを原判示第一のようにXに供与すべきものとして交付を受けたと認定したことは相当である。
〔説明〕選挙における投票買収資金として金員の交付を受けた者が更にその趣旨に従つて選挙人や選挙運動者等に供与した場合に、前者は後者に吸収されて供与罪のみが成立し受交付罪が別に成立しないとするのが大審院以来の判例とするところであるが、然らば交付を受けた金員の一部が手許に残り一部のみが供与されたときはどうなるかが本件の主要な問題である。その残部のみに受交付罪の成立を認めた同旨の判例としては既に二八・六・一三第十刑事部判決(二八(う)第九一七号公職選挙法違反被告事件)がある。本件もこれに従つたものである。受交付罪の成立する要件として判旨の説くところも正当であつて将来供与又は交付すべき相手方及び金額が具体的に指示されていることを要すると迄厳格に解する程のことはなかろうと思われる。